最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2542号 判決 1950年3月07日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人奥村文輔の上告趣意第一点について。
しかし公判廷における自白は憲法第三八條第三項及び刑訴応急措置法第一〇條第三項の「自白」の中に含まれないことは、しばしば当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一五四四号同二四年四月二〇日大法廷判決)に示されている通りである。從って原判決が被告人の公判廷における自白のみを証拠として判示の犯罪事実を認定したからとて所論のような違法はない。論旨は理由がない。
同第二点について。
昭和二二年政令第一六五号にいわゆる「収受」とは、同令第一條所定の財産につき所持即ち実力的支配関係(昭和二二年(れ)第九五六号同二四年五月一八日最高裁判所大法廷判決参照)を承継的に取得する意味に解すべきである。そうして原判決が証拠として採用している原審公判廷における被告人の供述(これを唯一の証拠として犯罪事実を認定しても違法でないことは第一点について説明した通りである)によれば、同人が判示煙草につきともかく一應所持を承継的に取得した趣旨が推断できる。(同人は、判示煙草を「買受けて所持し」と判示されている第一審判決記載の犯罪事実につき問われて、「その通りであります」、と答えているのみならず、買受けた煙草の一部分は貸席業者に「一包百四十円で買って百五十円か百六十円で売り」残余は自ら「闇市や立売りをした」と供述している。)それ故原判決が、被告人は判示煙草を収受したものであるとしたことには、所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
同第三点について。
原審公判廷において弁護人から、被告人の性格、生活状態等を立証するために、証人として在廷の清水信雄の訊問を申請したことは記録の上で明らかであるが、原審がこれを却下したのは、原審としては一件記録や被告人の供述等によってこれ等の点につき既に充分心証を得たためであったと思われる。裁判所は当事者から申請された凡ての証人を取調べなければならないというものではなく、健全な合理性に反しない限り、その自由裁量によって適当に証人申請の取捨選擇をなし得るものである(昭和二三年(れ)第八八号同年六月二三日大法廷判決参照)から、原審が右のような事情の下において所論の証人申請を却下したからとて、これを以て憲法第三七條第二項に違反するものとする論旨は採用できない。
また憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、構成その他において偏頗のおそれなき裁判所の裁判という意味である(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月五日大法廷判決参照)から、原審が所論の証人申請を却下したからとて、これを以て憲法の右の條項に違反するものということはできない。要するに論旨はすべて理由がない。
同第四点について。
執行猶予を言渡すか否かは結局量刑の問題に帰着し、事実審裁判所の自由裁量に委ねられているところである。從って原判決が執行猶予を言渡さなかったからとて、法律違背の問題は生じない。論旨は適法な上告理由とならないものである。
右の理由により旧刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。
この判決は、公判廷の自白に関する裁判官井上登及び同穂積重遠の少数意見(上記第一点についての説明に引用の判決文所載)を除く外、裁判官一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)